人間失格

1 作者简介

太宰治(だざい おさむ,1909年6月19日—1948年6月13日),本名津岛修治(つしま しゅうじ),日本小说家,日本战后无赖派文学代表作家。主要作品有小说《逆行》《斜阳》和《人间失格》等。

太宰治从学生时代起已希望成为作家,21岁时和银座咖啡馆女侍投海自杀未遂。1935年《晚年》一书中作品《逆行》列为第一届芥川奖的候选作品。结婚后,写出了《富岳百景》及《斜阳》等作品,成为当代流行作家。1948年6月13日深夜与崇拜他的女读者山崎富荣跳玉川上水自杀,时年39岁,留下了《人间失格》等作品。

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2 生词

はしがき

  1. 端書き はしがき 序言。
  2. 一葉 いちよう 一片树叶。 一叶,一页。(1枚。) 幼年 ようねん 幼年,童年。 庭園 ていえん 庭园,花园,园林。配置有树木、花草、假山、泉水等,供休闲观景的场所。 池 いけ 辺 ほとり 边,畔。(水際。岸。) 一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹(いとこ)たちかと想像される)庭園の池のほとりに、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。
  3. 美醜 びしゅう 言わば 謂わば いわば 说起来,譬如说。可以说。举例说的话,从某种意义上来说。 毛虫 けむし 毛虫。 讨厌的人,招人厌恶的人。 謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いささかでも、美醜に就いての訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、「なんて、いやな子供だ」と頗る不快そうに呟き、毛虫でも払いのける時のような手つきで、その写真をほうり投げるかも知れない。
  4. 羽毛 うもう 血の重さ、とでも言おうか、生命の渋さ、とでも言おうか、そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている。
  5. 気障 ざ 装模作样,装腔作势。华丽,刺眼,讨厌,令人作呕。 キザと言っても足りない。 気障なものの言い方をする。
  6. 若気 にやけ 男生打扮得非常女气,穿戴豪华,说话态度很娘。也指这样的人。 ニヤケと言っても足りない。
  7. 熟熟 つづく 痛切地,深感。深思痛感的样子。 つくづくいやになる。 凝神。仔细看东西的样子。 額 ひたい その写真には、わりに顔が大きく写っていたので、私は、つくづくその顔の構造を調べる事が出来たのであるが、額は平凡、額の皺も平凡、眉も平凡、眼も平凡、鼻も口も顎も、ああ、この顔には表情が無いばかりか、印象さえ無い。

第一の手記

  1. 手記 しゅき 手记。备忘录。 
  2. 東北 とうほく 东北,东北方。 日本本州东北部地方。 自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。
  3. ブリッジ bridge ハイカラ highcollar时髦的人,喜追求新事物的人。
  4. 設備 せつび 自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。
  5. 垢抜け あかぬけ 不土气;文雅,俏皮,优美。 俄かに わかに 突然,忽然。 実利 じつり 实际利益,现实利益,实惠,实用。 ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、にわかに興が覚めました。
  6. 案出 あんしゅつ 想出;研究出。 また、自分は子供の頃、絵本で地下鉄道というものを見て、これもやはり、実利的な必要から案出せられたものではなく、地上の車に乗るよりは、地下の車に乗ったほうが風がわりで面白い遊びだから、とばかり思っていました。
  7. 倹しい つましい 俭省的,简朴,节约的。 倹しい暮らし。
  8. 空腹 くうふく 空腹,空肚子,空心,饿。 また、自分は、空腹という事を知りませんでした。いや、それは、自分が衣食住に困らない家に育ったという意味ではなく、そんな馬鹿な意味ではなく、自分には「空腹」という感覚はどんなものだか、さっぱりわからなかったのです。
  9. っか 奉承,谄媚,恭维,阿谀。 自分は持ち前のおべっか精神を発揮して、おなかが空いた、と呟いて。
  10. 末っ子 すえっこ 最小的儿子〔女儿〕;老小;(兄弟姐妹中)最年幼者;老儿子,小闺女。
  11. 昔気質 むかしかたぎ 古板,老派,老脑筋,老顽固。 それに田舎の昔気質の家でしたので、おかずも、たいていきまっていて、めずらしいもの、豪華なもの、そんなものは望むべくもなかったので、いよいよ自分は食事の時刻を恐怖しました。
  12. 末席 まっせき 少量 しょうりょう 儀式 しき 家中 ちゅう 家中,家里所有的人。 俯く うつむく 俯首,垂头,低头,脸朝下。  自分はその薄暗い部屋の末席に、寒さにがたがた震える思いで口にごはんを少量ずつ運び、押し込み、人間は、どうして一日に三度々々ごはんを食べるのだろう、実にみな厳粛な顔をして食べている、これも一種の儀式のようなもので、家族が日に三度々々、時刻をきめて薄暗い一部屋に集り、お膳を順序正しく並べ、食べたくなくても無言でごはんを噛みながら、うつむき、家中にうごめいている霊たちに祈るためのものかも知れない、とさえ考えた事があるくらいでした。
  13. めく 像……样子。有……气息。带……味道。 接在名词、副词等的后面,构成五段动词,表示「……らしく見える」。 皮肉めいたことば。 晦渋 かいじゅう 晦涩难懂。言辞、文章等难懂,难以弄清其意思及论点。 人間は、めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べなければならぬ、という言葉ほど自分にとって難解で晦渋で、そうして脅迫めいた響きを感じさせる言葉は、無かったのです。
  14. 営み いとなみ 行为。(生活・行為。〕 工作,事情。(生活のための仕事。) 輾転 てんてん 呻吟 しんぎん つまり自分には、人間の営みというものが未だに何もわかっていない、という事になりそうです。自分の幸福の観念と、世のすべての人たちの幸福の観念とが、まるで食いちがっているような不安、自分はその不安のために夜々、転輾し、呻吟(しんぎん)し、発狂(はっきょう)しかけた事さえあります。
  15. 災い 禍 わざわい 灾祸,灾难。 自分には、禍のかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負(せお)ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありました。
  16. プラクティカル practical实际上(的),应用(的),实用(的)。(実用的。実際的。)
  17. 道化 どうけ 滑稽,逗笑,丑角,逗笑的人。 道化師 どうけし 滑稽演员,小丑,丑角,善于打诨逗笑的人。 そこで考え出したのは、道化でした。
  18. 求愛 きゅうあい 求爱。(異性に対し愛情を求めること。) それでいて 尽管那样,虽然那样。=それなのに 思い切る 断念,死心,想开。 决心,下定决心。 それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。
  19. 千番に一番の兼ね合い 做一千次才有一次成功的希望,极艰难不易成功的事。 とでも言うべき 可以说是….可以称得上。(……でも言える,……でも言い過ぎない。) おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心は必死の、それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、油汗流してのサーヴィスでした。
  20. まるで 简直,好像,宛如,仿佛;  (后接否定)完全,全然。 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。
  21. 口答え くちごたえ 顶嘴,反唇相讥,还嘴,烦嘴,还口,回嘴,顶撞,辩驳。 また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。
  22. おこごと たわけたことば。じょうだん。笑い話。 
  23. おっとり 大方;稳重;文静;心胸开阔。为人自然、不做作,态度、举止沉稳。 ふだんは、その本性をかくしているようですけれども、何かの機会に、たとえば、牛が草原でおっとりした形で寝ていて、突如、尻尾でピシッと腹の虻(あぶ)を打ち殺すみたいに、不意に人間のおそろしい正体を、怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも髪の逆立つほどの戦慄を覚え、この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れないと思えば、ほとんど自分に絶望を感じるのでした。
  24. 言動 げんどう 语言和行动,言行。 微塵も みじんも (后接否定)一点也(不)…;丝毫(没有)…。 直隠し ひたかくし 一味隐藏,一个劲儿德掩盖。(ひたすら隠すこと) 楽天 らくてん 乐观,乐天。 人間に対して、いつも恐怖に震いおののき、また、人間としての自分の言動に、みじんも自信を持てず、そうして自分ひとりの悩みは胸の中の小箱に秘め、その憂鬱ひたかくしに隠して、ひたすら無邪気の楽天性を装い、自分はお道化たお変人として、次第に完成されて行きました。
  25. 大半 たいはん 大半,多半,过半,大部分。 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘(べっそう)を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました。
  26. 夥しい おびただしい 非常,很,相当。(甚だしい。ものすごい。大変だ。) 很多,大量。(甚だ多い。) そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
  27. 二者択一 にしゃたくいつ 两个里面选一个。 二者択一を迫られる。
  28. じもじ 忸忸怩怩,扭扭捏捏。 自分が黙って、もじもじしているので、父はちょっと不機嫌な顔になり。
  29. 手帳 てちょう 笔记本,杂记本。 手帳に書きとめる。
  30. 取り寄せる 索取,要来,令(从远方)送来〔寄来〕,订货,定购;函购。 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので。
  31. 全知全能 ぜんちぜんのう 全知全能,无所不知,无所不能。 木っ端微塵 っぱみじん 粉碎。 ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬される」という状態の自分の定義でありました。
  32. 身の毛がよだつ 毛骨悚然。 想像してさえ、身の毛がよだつ心地がするのです。
  33. 綴り方 つづりかた 作文,造句。(旧制小学校の教科の一。文章を作る方法。今の作文にあたる。) 先生は、教室を出るとすぐ、自分のその綴り方を、他のクラスの者たちの綴り方の中から選び出し、廊下を歩きながら読みはじめて、クスクス笑い、やがて職員室にはいって読み終えたのか、顔を真赤にして大声を挙げて笑い、他の先生に、さっそくそれを読ませているのを見とどけ、自分は、たいへん満足でした。
  34. お茶目 おちゃめ 天真的恶作剧;鬼头鬼脑;爱开玩笑;好恶作剧(的人)。
  35. 世渡り よたり 生活,谋生,处世。 世渡りがうまい。 善于处世。
  36. 片手落ち かたておち 不公平,偏颇。 片手落ちな処置。 必ず片手落のあるのが、わかり切っている、所詮、人間に訴えるのは無駄である、自分はやはり、本当の事は何も言わず、忍んで、そうしてお道化をつづけているより他、無い気持なのでした。
  37. 念頭を置く 放在心上,总想看,记着。 人間は、お互いの不信の中で、何も念頭に置かず、平気で生きているではありませんか。
  38. 聴衆 ちょうしゅう 听众。 三々五々 さんさんごご 三三两两、三五成群。也指东西散乱。 演説がすんで、聴衆は雪の夜道を三々五々かたまって家路に就き、クソミソに今夜の演説会の悪口を言っているのでした。
  39. 心から しんから 衷心地、由衷地、从心眼儿里。 今夜の演説会は大成功だったと、しんから嬉しそうな顔をして父に言っていました。
  40. 朗らか ほらか 〔性格〕明朗;开朗;爽快。〔心情〕愉快,快活;舒畅。 自分には、あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きている、或いは生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです。 晴朗。天空无云而晴好。  朗らかな秋空。 清い きい 清澈,不混浊。纯洁,清白,清纯。无涉物欲、肉欲。 
  41. 付け込む つけこむ 抓住机会,乘机,乘人之危。 自分がつけ込まれる誘因の一つになったような気もするのです。

第二の手記

  1. 岸辺 きしべ 花吹雪 はなふぶき 飞雪似的落花(多指樱花)。 花吹雪が散る。
  2. 朝礼 ちょうれい 朝会,早会。 怠惰 いだ 懒惰,怠惰。懒散的样子。  それでも 虽然那样,即使那样,尽管如此。 自分は、その家にあずけられ、何せ学校のすぐ近くなので、朝礼の鐘の鳴るのを聞いてから、走って登校するというような、かなり怠惰な中学生でしたが、それでも、れいのお道化に依って、日一日とクラスの人気を得ていました。
  3. 他所 しょ 别处,别的地方,他乡。 
  4. 曲者 くせもの 坏人,可疑的人。 あいつは曲者だから用心したほうがいい。 不好惹的人,厉害的人。 相手はなかなかの曲者だよ。
  5. 勝るとも劣らない まさるともおとらない 有过之无不及。 自分の人間恐怖は、それは以前にまさるとも劣らぬくらい烈しく胸の底で蠕動(ぜんどう)していましたが、しかし、演技は実にのびのびとして来て、教室にあっては、いつもクラスの者たちを笑わせ、教師も、このクラスは大庭さえいないと、とてもいいクラスなんだが、と言葉では嘆じながら、手で口を覆って笑っていました。
  6. 矢先に やさきに “正要…的时候”比起“~とき”,紧迫感更强。 动词意向形接续。 始めようとする矢先だった。 警告しようとした矢先に起こった事故。
  7. ご多分に漏れず ごたぶんにもれず 没有例外,和其他一样(用于不好的倾向)。 白痴 はくち それは、背後から突き刺す男のごたぶんにもれず、クラスで最も貧弱な肉体をして、顔も青ぶくれで、そうしてたしかに父兄のお古と思われる袖が聖徳太子の袖みたいに長すぎる上衣を着て、学課は少しも出来ず、教練や体操はいつも見学という白痴に似た生徒でした。
  8. 震撼 しんかん 世界を震撼させた大事件。
  9. ~もあろうに 名词+もあろうに <意味> 居然还有…,偏偏就是(意外语气)。 ワザと失敗したという事を、人もあろうに、竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした。
  10. わよくば 碰巧,如果得手,得机会的话。 無二 に 独一无二,无双。あわよくば、彼と無二の親友になってしまいたいものだ、もし、その事が皆、不可能なら、もはや、彼の死を祈るより他は無い、とさえ思いつめました。
  11. 手懐ける てなずける 驯服,驯化。 使依从,使归附。 湛える たたえる 装满,充满。 满面。 寄宿 きしゅく  自分は、彼を手なずけるため、まず、顔に偽クリスチャンのような「優しい」媚笑(びしょう)を湛え、首を三十度くらい左に曲げて、彼の小さい肩を軽く抱き、そうして猫撫(ねこな)で声に似た甘ったるい声で、彼を自分の寄宿している家に遊びに来るようしばしば誘いましたが、彼は、いつも、ぼんやりした眼つきをして、黙っていました。
  12. 初夏 しょか 初夏,夏初。 しかし、自分は、或る日の放課後、たしか初夏の頃の事でした。
  13. 臆する おくする 畏缩,害怕。 上衣 うわぎ 臆する竹一の手を引っぱって、一緒に夕立ちの中を走り、家に着いて、二人の上衣を小母さんに乾かしてもらうようにたのみ、竹一を二階の自分の部屋に誘い込むのに成功しました。
  14. 長屋 ながや (一栋房子隔成几户合住的)简陋住房,大杂院。
  15. 悪計 あっけい 邪悪な計略。 竹一も、さすがに、これが偽善の悪計であることには気附かなかったようで。
  16. 脂下がる やにさがる 洋洋自得,沾沾自喜。 女の子に囲まれて脂下がる。
  17. 所謂 いわゆる 所谓。世人常说的。所说的。 所謂天才とはまだ違う。
  18. のっぺらぼう 光滑溜平,平平淡淡,平板,单调。 のっぺらぼうな顔。
  19. 薄氷を踏む はくひょうをふむ 附合 ふごう 自分は幼い時から、女とばかり遊んで育ったといっても過言ではないと思っていますが、それは、また、しかし、実に、薄氷を踏む思いで、その女のひとたちと附合って来たのです。
  20. 五里霧中 りむちゅう 五里雾中。(出自《后汉书》,人处于绵延五里的浓雾中之意)比喻因为对事物的情况全然不知而完全处于无法制定方针或计划的迷茫之中。) 五里霧中で、そうして時たま、虎の尾(お)を踏む失敗をして、ひどい痛手を負った。 痛手 いたで 重伤。 沉重的打击。
  21. 蔑む さげすむ 轻蔑,蔑视。 女は、人のいるところでは自分をさげすみ、誰もいなくなると、ひしと抱きしめる、女は死んだように深く眠る、女は眠るために生きているのではないかしら。
  22. だしも 还算可以,还说得过去。 実状 じつじょう 適する てきする 适合,适应,适于。  「惚れられる」なんていう言葉も、また「好かれる」という言葉も、自分の場合にはちっとも、ふさわしくなく、「かまわれる」とでも言ったほうが、まだしも実状の説明に適しているかも知れません。 一人や二人ならまだしも、10人も来るとは。
  23. 世話になる 得到别人帮助。 自分が中学時代に世話になったその家の姉娘も、妹娘も、ひまさえあれば、二階の自分の部屋にやって来て、自分はその度毎に飛び上らんばかりにぎょっとして、そうして、ひたすらおびえ。 友人の世話になる。 世話をする。 照看,照料,斡旋。
  24. 喜劇 げき 当時、ハロルド・ロイドとかいう外国の映画の喜劇役者が、日本で人気がありました。
  25. 試みる こころみる 试验一下。 わたしが試みてみよう。 勧められた薬を試みる。
  26. 興が覚める きょうがさめる 扫兴、兴致索然。 けれども、自分には、女から、こんな態度を見せつけられるのは、これが最初ではありませんでしたので、アネサの過激な言葉にも、さして驚かず、かえってその陳腐、無内容に興が覚めた心地で、そっと蒲団から脱け出し、机の上の柿をむいて、その一きれをアネサに手渡してやりました。
  27. 煩わしい わずらわしい 麻烦,繁琐。 厌烦,累赘。 子どもをつれてゆくのは、まったく煩わしい。
  28. 忌まわしい いまわしい 不祥的,不吉利的。 讨厌的,可恶的。 竹一の無智なお世辞が、いまわしい予言として、なまなまと生きて来て、不吉な形貌を呈するようになったのは、更にそれから、数年経った後の事でありました。
  29. 自画像 じがぞう それは、ゴッホの例の自画像に過ぎないのを知っていました。
  30. 色彩 しきさい 自分なども、ゴッホの原色版をかなりたくさん見て、タッチの面白さ、色彩の鮮やかさに興趣を覚えてはいたのですが、しかし、お化けの絵、だとは、いちども考えた事が無かったのでした。
  31. 暴風雨 ぼうふうう 暴風雨警報。
  32. 画家 がか この一群の画家たちは、人間という化け物に傷めつけられた。
  33. 我流 がりゅう 自成一派。 絵だけは、(漫画などは別ですけれども)その対象の表現に、幼い我流ながら、多少の苦心を払っていました。
  34. 千代紙 ちがみ (儿童劳作用的)彩色印花纸。千代紙細工(さいく)。 千代纸工艺品。
  35. のっぺり 平板而无表情。 平坦。单调。 自分の画いたものは、まるで千代紙細工のようにのっぺりして、ものになりそうもありませんでした。
  36. 絵画 かいが 
  37. 嘔吐 おうと 催す もよおす 举行,举办;主办。 歓迎会を催す。 感觉(要……)。 マイスターたちは、何でも無いものを、主観に依って美しく創造し、或いは醜いものに嘔吐をもよおしながらも、それに対する興味を隠さず、表現のよろこびにひたっている
  38. 授ける さずける 授予,赋予,赐给。 教授,传授。 竹一から、さずけられて、れいの女の来客たちには隠して、少しずつ、自画像の制作に取りかかってみました。 特権(とっけん)を授けられる。
  39. ケチくさい 吝啬,小气。 金持ちのくせにけち臭い。 粗糙,寒碜。 けち臭い洋服を着ている。
  40. 図画 が 手法 しゅほう 手法,技巧。 ッチ 笔触。(文章・映画などの全体的な表現の仕方。)  また、学校の図画の時間にも、自分はあの「お化け式手法」は秘(ひ)めて、いままでどおりの美しいものを美しく画く式の凡庸(ぼんよう)なタッチで画いていました。
  41. 刻印 こくいん 惚れられるという予言と、偉い絵画きになるという予言と、この二つの予言を馬鹿の竹一に依って額に刻印せられて、やがて、自分は東京へ出て来ました。
  42. 議会 かい 校歌 こうか 
  43. りとて 虽说如此,但是。(そうだからといって。だが。) 自分は、ちょいちょい学校を休んで、さりとて東京見物などをする気も起らず家で一日中、本を読んだり、絵をかいたりしていました。
  44. 取り合わせ 配,配合。 拼凑,什锦。 淫売婦 いんばいふ 淫売を職業とする女。売春婦。 左翼 さよく 自分は、やがて画塾(がじゅく)で、或る画学生から、酒と煙草と淫売婦と質屋(しつや)と左翼思想とを知らされました。妙な取合せでしたが、しかし、それは事実でした。
  45. 年長者 ねんちょうしゃ 年长者,年龄比自己大的人。 その画学生は、堀木正雄といって、東京の下町に生れ、自分より六つ年長者で、私立の美術学校を卒業して、家にアトリエが無いので、この画塾に通い、洋画の勉強をつづけているのだそうです。
  46. 近づき 熟识,认识(的人)。 近づきになる。 印 しるし お近づきのしるしに、乾杯!
  47. 頭髪 とうはつ 头发。 ポマード pomade发蜡,润发油,润发脂。 堀木は、色が浅黒く端正な顔をしていて、画学生には珍らしく、ちゃんとした脊広を着て、ネクタイの好みも地味で、そうして頭髪もポマードをつけてまん中からぺったりとわけていました。
  48. 与太 た 蠢人,窝囊废,傻瓜。 つまり、自分はその時、生れてはじめて、ほんものの都会の与太者を見たのでした。
  49. まれに見る 奇特;非凡的;少见的。 しかし、はじめは、この男を好人物、まれに見る好人物とばかり思い込み、さすが人間恐怖の自分も全く油断をして、東京のよい案内者が出来た、くらいに思っていました。
  50. 吝嗇 りんしょく 値切る ねる 还价,讲价。 それが、堀木に財布を渡して一緒に歩くと、堀木は大いに値切って、しかも遊び上手というのか、わずかなお金で最大の効果のあるような支払い振りを発揮した。
  51. 最短 さいたん 最短時間で目的地へ着くという手腕をも示し。
  52. 料亭 りょうてい 日本式酒家。日式饭馆。主要供应日本菜的饭馆。 何々という料亭に立ち寄って朝風呂へはいり。
  53. 実地 じっち 安い割に、ぜいたくな気分になれるものだと実地教育をしてくれたり。
  54. 安価 あんか 廉价,便宜。 
  55. 聞き手 ききて 听者,听众。 てんで 丝毫,完全,根本。(まったく。) さらにまた、堀木と附合って救われるのは、堀木が聞き手の思惑などをてんで無視して、その所謂情熱の噴出するがままに、(或いは、情熱とは、相手の立場を無視する事かも知れませんが)四六時中、くだらないおしゃべりを続け、あの、二人で歩いて疲れ、気まずい沈黙におちいる危懼(きく)が、全く無いという事でした。 
  56. 紛らす まぎらす 蒙混过去,掩饰过去,岔开,支吾过去。(ごまかす。)酒、煙草、淫売婦、それは皆、人間恐怖を、たとい一時でも、まぎらす事の出来るずいぶんよい手段である事が、やがて自分にもわかって来ました。
  57. 押し売り おしうり 强行推销(的人),强迫别人接受。 狂人 きょうじん  疯子。 何の打算も無い好意、押し売りでは無い好意、二度と来ないかも知れぬひとへの好意、自分には、その白痴か狂人の淫売婦たちに、マリヤの円光を現実に見た夜もあったのです。 
  58. 身辺 しんぺん いつのまにやら無意識の、或るいまわしい雰囲気を身辺にいつもただよわせるようになった様子で。
  59. 牛肉 ぎゅうにく
  60. 歌舞伎 かぶぎ (近世初期に発生、江戸時代の文化が育てた日本固有の演劇。) また、歌舞伎を見に行って隣りの席のひとに。
  61. 思いがけない 意想不到。 また、思いがけなく故郷の親戚の娘から、思いつめたような手紙が来て。 彼の思いがけない質問にどう答えたらよいかわからなかった。
  62. 見栄坊 みえぼう 爱修饰的人,爱虚荣的人.爱修饰的人,爱虚荣的人。 
  63. 共産主義 きょうさんしゅぎ 
  64. 上座 かみざ 上座,上席。地位高的人坐的座席,最上首的座位。 自分は所謂「同志」に紹介せられ、パンフレットを一部買わされ、そうして上座のひどい醜い顔の青年から、マルクス経済学の講義を受けました。
  65. 青葉 おば (初夏的)嫩叶,新绿,绿叶。 
  66. 強張る こわばる 发硬,变得僵硬;(因紧张而表情)僵住。 「同志」たちが、いやに一大事の如く、こわばった顔をして、一プラス一は二、というような、ほとんど初等の算術めいた理論の研究にふけっているのが滑稽に見えて。 緊張で表情が強張る。
  67. 会合 かいごう 聚会,集会。会合。缔合。 同級生の会合を催す。
  68. 戯者 おどけもの ふざけた、こっけいなことをする人。 
  69. 合法 ごうほう また自分のように、ただ非合法の匂いが気にいって、そこに坐り込んでいる者もあり。
  70. からくり 机关。 机械的构造、组成。 
  71. 日陰者 ひかげもの 湮没于世的人,被埋没的人。 指差す ゆびさす 用手指。 受人指责,被人说坏话。 自分は、自分を生れた時からの日蔭者のような気がしていて、世間から、あれは日蔭者だと指差されている程のひとと逢うと、自分は、必ず、優しい心になるのです。
  72. 戯れる たわむれる 游戏,玩耍。 しかし、それは自分の糟糠(そうこう)の妻の如き好伴侶で、そいつと二人きりで寂しく遊びたわむれているというのも、自分の生きている姿勢の一つだったかも知れないし。
  73. 脛に傷を持つ。 すねにきずをもつ 心中有愧,有亏心事。脛に傷を持つ身あって、あまり人に厳しいことも言えない。
  74. 冷やかし ひやかし 嘲弄,嘲笑。 堀木の場合は、ただもう阿呆のひやかしで、いちど自分を紹介しにその会合へ行ったきりで、マルキシストは、生産面の研究と同時に、消費面の視察も必要だなどと下手な洒落を言って。 只询价而不买(的人)。 冷やかしの客。
  75. 烈火 っか 堀木も自分も、烈火の如く怒られ、裏切者として、たちどころに追い払われた事でしょう。
  76. 除名 じょめい しかし、自分も、また、堀木でさえも、なかなか除名の処分に遭わず、殊にも自分は、その非合法の世界に於いては、合法の紳士たちの世界に於けるよりも、かえってのびのびと、所謂「健康」に振舞う事が出来ましたので、見込みのある「同志」として、噴き出したくなるほど過度に秘密めかした、さまざまの用事をたのまれるほどになったのです。
  77. クシャク 不利落,语言生硬,不灵活。 今日の彼はギクシャクした話し方で、いつもと違っていた。
  78. 呆気にとられる あっけにとられる (因事出意外而)惊呆,目瞪口呆,呆若木鸡。 その運動の連中は、一大事の如く緊張し、探偵小説の下手な真似みたいな事までして、極度の警戒を用い、そうして自分にたのむ仕事は、まことに、あっけにとられるくらい、つまらないものでした。
  79. 党員 とういん 自分のその当時の気持としては、党員になって捕えられ、たとい終身、刑務所で暮すようになったとしても、平気だったのです。
  80. 売り払う うりはらう 卖掉,脱手,脱售。 父がその家を売払うつもりらしいという事を下男から聞きました。
  81. まごつく 张皇失措,着慌。不知如何是好,茫然不知所措。 それが急に、下宿のひとり住いになり、何もかも、月々の定額の送金で間に合わせなければならなくなって、自分は、まごつきました。
  82. 虚構 きょこう その手紙に於いて訴えている事情は、ことごとく、お道化の虚構でした。人にものを頼むのに、まず、その人を笑わせるのが上策と考えていたのです
  83. へとへと 非常疲乏,精疲力竭,筋疲力尽。形容非常疲惫,身上一点力气也没有。 この娘は、自分がれいの運動の手伝いでへとへとになって帰り、ごはんも食べずに寝てしまってから、必ず手紙と万年筆を持って自分の部屋にやって来て。
  84. 腹這い はらばい 匍匐,爬行。 俯卧,趴。 床に腹這いになる。
  85. やたらに =無闇に、非常に。 打ち合せがすんでからも、その女は、いつまでも自分について歩いて、そうして、やたらに自分に、ものを買ってくれるのでした。
  86. 浅ましい あさましい 卑鄙,下流。 可耻;可叹。 或る夏の夜、どうしても離れないので、街の暗いところで、そのひとに帰ってもらいたいばかりに、キスをしてやりましたら、あさましく狂乱の如く興奮し、自動車を呼んで、そのひとたちの運動のために秘密に借りてあるらしいビルの事務所みたいな狭い洋室に連れて行き、朝まで大騒ぎという事になり、とんでもない姉だ、と自分はひそかに苦笑しました。
  87. るずる 拖拉着。 拖延不决。 取り結ぶ 缔结,订立。 讨好。 機嫌を取り結ぶ。 金縛り かなしぼり 紧紧地捆绑(捆住,绑住)。 束缚住。身体不能动弹。鬼压床。 これまでの、さまざまの女のひとのように、うまく避けられず、つい、ずるずるに、れいの不安の心から、この二人のご機嫌をただ懸命に取り結び、もはや自分は、金縛り同様の形になっていました。
  88. 女給 じょきゅう 女服务员。 空恐ろしい そらおそろしい (不知为什么)感到非常可怕,感到一种模糊的忧虑。 同じ頃また自分は、銀座の或る大カフエの女給から、思いがけぬ恩を受け、たったいちど逢っただけなのに、それでも、その恩にこだわり、やはり身動き出来ないほどの、心配やら、空おそろしさを感じていたのでした。
  89. 上辺 うわべ 外表,外观。 表面。徒有外表(的态度等)。 心では、相変らず、人間の自信と暴力とを怪しみ、恐れ、悩みながら、うわべだけは、少しずつ、他人と真顔の挨拶、いや、ちがう、自分はやはり敗北のお道化の苦しい笑いを伴わずには、挨拶できないたちなのです
  90. 訛り なまり 讹音,乡音。 どこかに関西の訛りがありました。
  91. 地金 じがね 本来面目『成』,本性。 そのひとに安心しているので、かえってお道化など演じる気持も起らず、自分の地金の無口で陰惨なところを隠さず見せて、黙ってお酒を飲みました。
  92. 青大将 あおだいしょう 〈动〉青蛇,黄领蛇。
  93. 丸坊主 まるぼうず 光头。把头发剪短或完全剃光的头。 そうして、青大将の顔に似た顔つきの、丸坊主のおやじが、首を振り振り、いかにも上手みたいにごまかしながら鮨(すし)を握っている様も、眼前に見るように鮮明に思い出されている。
  94. 大工 だいく 木匠,木工(活儿)。 
  95. 姿態 したい そうして、自分のそんな姿態が、かえって、そのひとには、気にいったようでした。
  96. 落葉 らくよう そのひとも、身のまわりに冷たい木枯しが吹いて、落葉だけが舞い狂い、完全に孤立している感じの女でした。
  97. 身の上話 みのうえばなし 身世谈,一生的经历。 自分は、どういうものか、女の身の上噺というものには、少しも興味を持てないたちで、それは女の語り方の下手なせいか、つまり、話の重点の置き方を間違っているせいなのか、とにかく、自分には、つねに、馬耳東風なのでありました。
  98. そそる 引起,勾起。 千万言 せんまんげん 千言万語。  自分には、女の千万言の身の上噺よりも、その一言の呟きのほうに、共感をそそられるに違いないと期待していても、この世の中の女から、ついにいちども自分は、その言葉を聞いた事がないのを、奇怪とも不思議とも感じております。
  99. 大それた だいそれた 狂妄的,无法无天的。 连体词。 こんな大それた言葉を、なんの躊躇も無く、肯定して使用する事は、自分のこの全手記に於いて、再び無いつもりです。
  100. 金の切れ目が縁の切れ目。 钱尽缘分断。 
  101. 消沈 しょうちん 消沉,沮丧,垂头丧气『成』。 男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気銷沈して、ダメになり、笑う声にも力が無くなる。
  102. 引っかかり 关系。 担心,在意。 その時の自分の、「金の切れめが縁の切れめ」という出鱈目の放言が、のちに到って、意外のひっかかりを生じたのです。
  103. 切断 せつだん 腕を切断された患者(かんじゃ)。
  104. 粘る ねる 坚持,有耐性,顽强到底。 この悪友は、その屋台を出てからも、さらにどこかで飲もうと主張し、もう自分たちにはお金が無いのに、それでも、飲もう、飲もうよ、とねばるのです。
  105. 酒池肉林 しゅちにくりん
  106. 内縁 ないえん 未办结婚登记,姘居。 のちに、自分は、自分の内縁の妻が犯されるのを、黙って見ていた事さえあったほどなのです。
  107. 値する 価する あたいする 值,价钱相当于……。 值得,有……价值。 所謂俗物の眼から見ると、ツネ子は酔漢のキスにも価いしない、ただ、みすぼらしい、貧乏くさい女だったのでした。
  108. 貧富 ひんぷ 貧富の不和は、陳腐のようでも、やはりドラマの永遠のテーマの一つだと自分は今では思っていますが。
  109. 潜む ひむ 隐藏,潜藏,潜伏下来。藏在(心里)。隐含。潜在。 けれども、その時にはまだ、実感としての「死のう」という覚悟は、出来ていなかったのです。どこかに「遊び」がひそんでいました。
  110. マント まんと manteau斗篷,披风。 質草 しぐさ 当的东西。 自分は立って、袂(たもと)からがま口を出し、ひらくと、銅銭が三枚、羞恥よりも凄惨(せいさん)の思いに襲われ、たちまち脳裡(のうり)に浮ぶものは、仙遊館の自分の部屋、制服と蒲団だけが残されてあるきりで、あとはもう、質草になりそうなものの一つも無い部屋、他には自分のいま着て歩いている絣の着物と、マント、これが自分の現実なのだ、生きて行けない、とはっきり思い知りました。 
  111. 屈辱 くつじょく それは、自分が未だかつて味わった事の無い奇妙な屈辱でした。
  112. 助かる たすかる 得救,脱险。 女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。
  113. 義絶 ぎぜつ 生家 せいか 娘家,出生的家。実家。また、生まれた家。そうして、くにの父をはじめ一家中が激怒しているから、これっきり生家とは義絶になるかも知れぬ、と自分に申し渡して帰りました。
  114. そめそ 低声抽泣状。 けれども自分は、そんな事より、死んだツネ子が恋いしく、めそめそ泣いてばかりいました。 
  115. 短歌 たんか 短歌(日本传统和歌的一种,由五,七,五,七,七形式的五个句子,即三十一音组成)。 下宿の娘から、短歌を五十も書きつらねた長い手紙が来ました。「生きくれよ」というへんな言葉ではじまる短歌ばかり、五十でした。
  116. 収容 しゅうよう 自分は海辺の病院に収容せられた。
  117. 殊更 ことさら 故意。特意。 ことさらに、消え入るような細い声で返事しました。
  118. 裁判官 さいばんかん 裁判官。审判官,法官。 ほとんど裁判官の如く、もったいぶって尋ねるのでした。
  119. 徒然 つれづれ 无聊赖,寂寞,闲得无事。 秋の夜のつれづれに。 寂しさの徒然に。
  120. り調べる 调查,审讯。 彼は、自分を子供とあなどり、秋の夜のつれづれに、あたかも彼自身が取調べの主任でもあるかのように装い(よそおい)、自分から猥談(わいだん)めいた述懐を引き出そうという魂胆(こんたん)のようでした。
  121. 軽重 けいちょう 思し召す おぼしめす 想,思量。 助平 すべい 好色的,色狼,色鬼。 自分は、あくまでも神妙に、そのお巡りこそ取調べの主任であって、刑罰(けいばつ)の軽重の決定もそのお巡りの思召し一つに在るのだ、という事を固く信じて疑わないような所謂誠意をおもてにあらわし、彼の助平の好奇心を、やや満足させる程度のいい加減な「陳述」(ちんじゅつ)をするのでした。
  122. 手心 てころ 斟酌,分寸,裁夺。 手心を加える。 加以酌量。 
  123. 不具者 ふしゃ 残废者。 みにくい不具者のような、みじめな気がしました。
  124. き 脓肿,脓疱,疮,疙疸,疖子。 けれども、それは、喉から出た血ではなく、昨夜、耳の下に出来た小さいおできをいじって、そのおできから出た血なのでした。
  125. 保護者 ほしゃ 保护人,监护人。 保証人 ほしょうにん 保证人,担保人。 誰か、あるだろう、お前の保護者とか保証人とかいうものが
  126. 追憶 ついおく その時の追憶を、いま書くに当っても、本当にのびのびした楽しい気持になるのです。 少年時代を追憶する。 
  127. 冷や汗 ひやあせ しくじり 失败,失策。 しかし、その時期のなつかしい思い出の中にも、たった一つ、冷汗三斗(さんとう)の、生涯わすれられぬ悲惨なしくじりがあったのです。
  128. 邪淫 じゃいん 聡明 そうめい 静謐 せいひつ もし自分が美貌だったとしても、それは謂いわば邪淫の美貌だったに違いありませんが、その検事の顔は、正しい美貌、とでも言いたいような、聡明な静謐の気配を持っていました。
  129. 駆け引き かけひき 伺机,进退,战略策略。 策略;手腕。 自分は袂からハンケチを出し、ふとその血を見て、この咳もまた何かの役に立つかも知れぬとあさましい駈け引きの心を起し、ゴホン、ゴホンと二つばかり、おまけの贋の咳を大袈裟に附け加えて、ハンケチで口を覆ったまま検事の顔をちらと見た。
  130. 引き取り人 收养者,抱养人.领取人,认领人,收养者,抱养人。 検事局の控室のベンチに腰かけ、引取り人のヒラメが来るのを待っていました。

第三の手記

  1. 祝福 しゅくふく 惚れられるという、名誉で無い予言のほうは、あたりましたが、きっと偉い絵画きになるという、祝福の予言は、はずれました。
  2. 愛想笑い あいそわらい 讨好的笑,谄笑。 ヒラメはいつも不機嫌、自分があいそ笑いをしても、笑わず、人間というものはこんなにも簡単に、それこそ手のひらをかえすが如くに変化できるものかと、あさましく、いや、むしろ滑稽に思われるくらい。
  3. 間口 ぐち 正面的宽度,横宽。 店の間口も狭く、店内はホコリだらけで、いい加減なガラクタばかり並べてある。
  4. 夜遅く よるおそく 很晚。 夜おそく、二階の自分には内緒で、二人でおそばなどを取寄せて無言で食べている事がありました。
  5. じめじめ 潮湿,湿润。 じめじめした部屋。 阴郁,苦闷。 ジメジメした性格。 
  6. 逃げ腰 にげごし 想要逃脱,想要逃避。 ヒラメの話方には、いや、世の中の全部の人の話方には、このようにややこしく、どこか朦朧として、逃腰とでもいったみたいな微妙な複雑さがある。
  7. 生半可 なまはんか 不熟练,不充分,不彻底。半半拉拉,不充分。 私も、いったんあなたの世話を引受けた以上、あなたにも、生半可な気持でいてもらいたくないのです。 生半可な考え。
  8. 千尋 ひろ 千寻。寻(ひろ)是日本古代的一个长度单位,为把左右手伸直后的两手之间的长度。千寻则是寻的一千倍,现在多用来形容非常的长或深。 軽蔑の影にも似て、それとも違い、世の中を海にたとえると、その海の千尋の深さの箇所(かしょ)に、そんな奇妙な影がたゆとうていそうで、何か、おとなの生活の奥底をチラと覗のぞかせたような笑いでした。 千尋の海底(かいてい)に沈む。
  9. 明け方 あけがた 黎明,拂晓。 そんな事では話にも何もならぬ、ちっとも気持がしっかりしていない、考えなさい、今夜一晩まじめに考えてみなさい、と言われ、自分は追われるように二階に上って、寝ても、別に何の考えも浮びませんでした。そうして、あけがたになり、ヒラメの家から逃げました。
  10. 発奮 はっぷん 发奋,振奋起来。 そのうちに、もし万一、自分にも発奮の気持が起り、志を立てたところで、その更生資金をあの貧乏なヒラメから月々援助せられるのかと思うと、とても心苦しくて、いたたまらない気持になったからでした。
  11. 性癖 せいへき 癖好,毛病,癖性。 どうせ、ばれるにきまっているのに、そのとおりに言うのが、おそろしくて、必ず何かしら飾りをつけるのが、自分の哀しい性癖の一つで、それは世間の人が「嘘つき」と呼んで卑しめている性格に似ている。
  12. 奉仕 ほうし (不计报酬而)服务,效劳,效力。 国家に奉仕する。
  13. 揉みほぐす もみほぐす 缓解;让心情变得平和、平静。 いっさいの附き合いは、ただ苦痛を覚えるばかりで、その苦痛をもみほぐそうとして懸命にお道化を演じている。
  14. 蠢く うごめく 蠢动,蠕动。 その門の奥には、おそろしい竜みたいな生臭い奇獣がうごめいている気配を、誇張でなしに、実感せられていたのです。
  15. 在宅 ざいたく 在家。(自宅にいること。) 堀木は、在宅でした。
  16. 鼻緒 はなお 木屐带,草屐带。 下では、堀木の老父母と、それから若い職人と三人、下駄の鼻緒を縫ったり叩いたりして製造しているのでした。 
  17. ちゃっかり 老奸巨猾。不落空而厚颜无耻的样子。有缝就钻。机警。机灵。 堀木は、その日、彼の都会人としての新しい一面を自分に見せてくれました。それは、俗にいうチャッカリ性でした。 
  18. 止めどなく 没完没了,无止境。 自分のように、ただ、とめどなく流れるたちの男では無かったのです。
  19. 咎める とがめる 责难,责备,挑剔。〔非難する。〕 それこそ、眼に角を立てて、自分をとがめるのでした。 红肿,发炎。きずがとがめている。
  20. 老母 ろうぼ 堀木の老母が、おしるこを二つお盆に載せて持って来ました。
  21. 豪気 ごうき 果断;了不起;漂亮。 そりゃ豪気だね。 ああ、こいつあ、うめえや。豪気だなあ。
  22. 心尽くし こころづくし 费尽心思、苦心。为别人的事费尽心思。 自分は、その時それを、不味いとは思いませんでしたし、また、老母の心づくしも身にしみました。自分には、貧しさへの恐怖感はあっても、軽蔑感は、無いつもりでいます
  23. のべつ幕なし べつまくなし 连续不断地。 のべつ幕なしにおしゃべりする。
  24. 活気 かっき 活力,活泼,生动。 堀木は、にわかに活気づいている。
  25. 女児 じょじ 五つ(いつつ)になる女児と、高円寺のアパートに住んでいました。
  26. 男妾 おどこめかけ 男妾,面首,受女子蓄养的情夫。 はじめて、男めかけみたいな生活をしました。
  27. 赤面 せきめん 脸红;害臊;惭愧。 女性の前では赤面する。
  28. 逸品 いっぴん 绝品,佳作,绝品,杰作。珍品。独一无二东西。 空っぽ からっぽ 空,空虚。 その後、さまざま画いてみても、その思い出の中の逸品には、遠く遠く及ばず、自分はいつも、胸がからっぽになるような、だるい喪失感になやまされ続けて来たのでした。
  29. 発行 はっこう その社では、子供相手のあまり名前を知られていない月刊の雑誌を発行していたのでした。
  30. 汚らわしい けがらわしい 讨厌,卑鄙,猥琐,不干净,肮脏。 煽てる おだてる 给戴高帽,捧,拍;煽惑,煽动,蛊惑,怂恿,挑唆,架弄。 破目 はめ=羽目 男勝り おとこまさり 胜似男子,比男子能干(的女人),巾帼英雄,女丈夫。  例文:シヅ子に、そのほかさまざまの事を言われて、おだてられても、それが即ち男めかけのけがらわしい特質なのだ、と思えば、それこそいよいよ「沈む」ばかりで、一向に元気が出ず、女よりは金、とにかくシヅ子からのがれて自活したいとひそかに念じ、工夫しているものの、かえってだんだんシヅ子にたよらなければならぬ破目になって、家出の後仕末やら何やら、ほとんど全部、この男まさりの甲州女の世話を受け、いっそう自分は、シヅ子に対し、所謂「おどおど」しなければならぬ結果になったのでした。
  31. 取り計らう とりはからう 处理,照顾,安排。 天下晴れて てんかはれて 公然地,公开地。 シヅ子の取計らいで、ヒラメ、堀木、それにシヅ子、三人の会談が成立して、自分は、故郷から全く絶縁せられ、そうしてシヅ子と「天下晴れて」同棲どうせいという事になった。
  32. 背く そく 背着,背向。 违背,不遵从。 言いつける 吩咐,委任,命令。 告发,告密,打小报告。 親の言いつけに、そむいたから。 命令に背く。 子供のいたずらをその親に言いつける。
  33. 強請る ねだる 死乞白赖地要求,勒索,强求。 シゲちゃんは、いったい、神様に何をおねだりしたいの?
  34. 目眩 目まい めい 头晕眼花,目眩。 ぎょっとして、くらくら目まいしました。敵。自分がシゲ子の敵なのか、シゲ子が自分の敵なのか、とにかく、ここにも自分をおびやかすおそろしい大人がいたのだ、他人、不可解な他人、秘密だらけの他人、シゲ子の顔が、にわかにそのように見えて来ました。
  35. 色魔 しま 色鬼,玩弄女性者。 「色魔! いるかい?」
  36. 触らぬ神に祟りなし さわらぬかみにたたりなし 多一事不如少一事。しかし、自分のように人間をおそれ、避け、ごまかしているのは、れいの俗諺の「さわらぬ神にたたりなし」とかいう怜悧狡猾の処生訓を遵奉している 。
  37. 道楽 どうらく (业余的)爱好,嗜好,癖好。 吃喝嫖赌,放荡,不务正业,堕落。 しかし、お前の、女道楽もこのへんでよすんだね。これ以上は、世間が、ゆるさないからな。
  38. っ込める 缩入,缩回。 手を引っ込める。 撤回。 という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。
  39. 汝 なんじ 你。(おまえ。)
  40. 去来 きょらい 指去和来。也指心中的意念时隐时现。来去。联翩。 さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いた。
  41. お守り おもり 看孩子。 照看老人(的人)。 無口で、笑わず、毎日々々、シゲ子のおもりをします。
  42. ぽつりぽつり 滴滴答答。 断断续续。 ぽつりぽつり、シヅ子の社の他からも注文が来るようになっていましたが、すべてそれは、シヅ子の社よりも、もっと下品な謂わば三流出版社からの注文ばかりでした。
  43. 詩句 しく
  44. 慎ましい つつましい 恭谨、拘谨、彬彬有礼。稳重,小心谨慎。 质朴、朴素。俭朴。 つつましい幸福。いい親子。幸福を、ああ、もし神様が、自分のような者の祈りでも聞いてくれるなら、いちどだけ、生涯にいちどだけでいい、祈る。
  45. またも 「また」を強めた語。またしても。またまた。 そうして、京橋のすぐ近くのスタンド・バアの二階に自分は、またも男めかけの形で、寝そべる事になりました。
  46. しっぺ返し しっぺがえし 报应。害人终将害己。 しっぺ返しは必ずくるのでしょうか?
  47. 大海 たいかい 大海の一粟(いちぞく)。
  48. 差し当たって 目前,当前。 差し当たって暮らしに困るようなことはない。
  49. マダム だむ 太太;女士;夫人。 女经理;女掌柜;老板娘。 マダムが、その気だったら、それですべてがいいのでした。
  50. 怪しむ あやしむ 怀疑。(怪しいと思う。疑う。) 怪しまれる。 「世間」は少しもあやしまず、そうしてその店の常連たちも、自分を、葉ちゃん、葉ちゃんと呼んで、ひどく優しく扱い、そうしてお酒を飲ませてくれるのでした。
  51. 拙い つたない 拙劣,不高明。 愚拙,笨拙。 店のお客に向って酔ってつたない芸術論を吹きかけるようにさえなりました。
  52. 匿名 とくめい 自分は、上司幾太(情死、生きた)という、ふざけ切った匿名で、汚いはだかの絵など画きます。
  53. 処女 しょじょ けれども、その頃、自分に酒を止めよ、とすすめる処女がいました。
  54. 八重歯 えば 双重齿,虎牙。 ヨシちゃんと言い、色の白い、八重歯のある子でした。
  55. 微醺 びくん 微醺を帯びる。
  56. 年が明ける としがあける 新年到来,岁月更新。 厳寒 げんかん 年が明けると共に悩みを去って欲しいものです。 マンホール manhole窨井,检修孔。下水道。 手当 てあて 补助,津贴。劳动等的报酬。 治疗。对外伤或疾病进行处理。 例文:としが明けて厳寒の夜、自分は酔って煙草を買いに出て、その煙草屋の前のマンホールに落ちて、ヨシちゃん、たすけてくれえ、と叫び、ヨシちゃんに引き上げられ、右腕の傷の手当を、ヨシちゃんにしてもらい、その時ヨシちゃんは、しみじみ、「飲みすぎますわよ」と笑わずに言いました。
  57. 出血 しゅっけつ 自分は死ぬのは平気なんだけど、怪我をして出血してそうして不具者などになるのは、まっぴらごめんのほうですので、ヨシちゃんに腕の傷の手当をしてもらいながら、酒も、もういい加減によそうかしら、と思ったのです。
  58. 汚れ よごれ 污垢;污渍;脏。汚れが落ちない。 この本には汚れがある。 月经。 
  59. 一本勝負 いっぽんしょうぶ 一招定胜负。 結婚して春になったら二人で自転車で青葉の滝を見に行こう、と、その場で決意し、所謂「一本勝負」で、その花を盗むのにためらう事をしませんでした。
  60. 絶する ぜっする 超绝,少有,隔开。 言語に絶する。 无法形容,语言无法表达。 想像を絶する苦心。 难以想象的苦心。 その後に来た悲哀は、凄惨と言っても足りないくらい、実に想像を絶して、大きくやって来ました。
  61. 生易しい なまやさしい (用于否定句)轻而易举的,极容易的。 決して、そんな一本勝負などで、何から何まできまってしまうような、なまやさしいところでも無かったのでした。

  1. おっかなびっくり 提心吊胆,心虚胆怯,胆颤心惊,战战兢兢。 男はたいてい、おっかなびっくりで、おていさいばかり飾り、そうして、ケチでした。
  2. 女史 じょし 女士。用在有社会地位和声望的妇女名下的词语。 使者 しゃ 使者。奉命或受托去办事的人。 これでも、いくらか分別くさい顔になりやがった。きょうは、高円寺女史からのお使者なんだがね。
  3. 傷口 きずぐち 傷口に薬を塗る。
  4. ありありと 清清楚楚,明明白白。 当時の情景がありありと目に浮かぶ。 たちまち過去の恥と罪の記憶が、ありありと眼前に展開せられ、わあっと叫びたいほどの恐怖で、坐っておられなくなるのです。
  5. 毛並み けなみ 毛色。毛的样子。 性质,(血统、出身、教养、学历等的)好坏。 降雪 こうせつ とにかく、ふたり顔を合せると、みるみる同じ形の同じ毛並の犬に変り、降雪のちまたを駈けめぐるという具合いになるのでした。
  6. 泥酔 でいすい 酩酊大醉。 高円寺のシヅ子のアパートにもその泥酔の二匹の犬が訪問し、宿泊して帰るなどという事にさえなってしまったのです。
  7. 然り しり 然也。是这样。 然りと答える。 喜劇に一個でも悲劇名詞をさしはさんでいる劇作家は、既にそれだけで落第、悲劇の場合もまた然り、といったようなわけなのでした。
  8. 言下 げんか 言下,话说完后的瞬间。 堀木が言下に答えます。
  9. 大出来 おおでき 成绩极好,非常出色,特别成功。 大出来。そうして、生はトラだなあ。
  10. もや 未必,不至于,难道。(まさか。いくらなんでも。) ではね、もう一つおたずねするが、漫画家は? よもや、コメとは言えませんでしょう?
  11. 蜂 はち 蟻 あり
  12. お里が知れる おさとがしれる 原形毕露。 おさとが知れるぜ。
  13. 縄目 なわめ 被缚。 恥辱 ちじょく  生意気言うな。おれはまだお前のように、繩目の恥辱など受けた事が無えんだ。
  14. 解する かいする 解释,解答。 理解,懂得。 生ける屍(しかばね) 行尸走肉。 至当 しとう 最适当。 堀木は内心、自分を、真人間あつかいにしていなかったのだ、自分をただ、恥知らずの、阿呆のばけものの、謂いわば「生ける屍」としか解してくれず、そうして、彼の快楽のために、自分を利用できるところだけは利用する、それっきりの「交友」だったのだ、と思ったら、さすがにいい気持はしませんでしたが、しかしまた、堀木が自分をそのように見ているのも、もっともな話で、自分は昔から、人間の資格の無いみたいな子供だったのだ、やっぱり堀木にさえ軽蔑せられて至当なのかも知れない
  15. ネオンサイン neon sign霓虹灯。 明滅 めいめつ 闪烁,明灭。 近くのビルの明滅するネオンサインの赤い光を受けて、堀木の顔は、鬼刑事の如く威厳(いげん)ありげに見えました。
  16. 嫌味 いやみ 讨厌,令人生厌。给人不快的感觉。 お前には、どこかヤソ坊主くさいところがあるからな。いや味だぜ。 あの男はどこか嫌味がある。
  17. き上げる 卷上,卷起,卷紧。 扬起。 抢夺,攫取;搜刮;勒索。(奪い取る。) 罪人 ざいにん そりゃそうさ、お前のように、罪人では無いんだから。おれは道楽はしても、女を死なせたり、女から金を巻き上げたりなんかはしねえよ。 
  18. 検分 けんぶん 实地检查、实际调查真相、检视。 実情を検分する。
  19. そら豆 そらまめ 蚕豆。